研究会『Webアクセシビリティ研究の未来を拓く』ライブレポート

第30回UAI研究会SIGACI 第4回研究談話会の共同研究会『Webアクセシビリティ研究の未来を拓く』が開催されました。今回は様子をライブでレポートしてみました(帰宅後、細部を修正しました)。

開会「本研究会の趣旨説明」梅垣正宏ユーディット

  • Webアクセシビリティの研究は、より人間の趣向にマッチする技術を考える必要がある
  • 認知心理、人間工学等の切り口がある
  • 十分に定義されたモノではない、それを見つけていくのも本研究会の趣旨である
  • これからあるべき研究は何か、という事をディスカッションできれば幸いである

第1部。

「問題提起」渡辺隆行東京女子大学

以下、マインドマップ上流の見出しだけピックアップする。

I. 背景
  • Webアクセシビリティ向上の要件」論文
  • ガイドラインの策定
    • 根拠?
      • JISやWCAGのWG
        • 委員の話し合いで決定
      • WCAG 2.0 PRの例
        • 4原則(知覚可能、操作可能、理解可能、堅牢性)まではブレークダウン→各原則の妥当性?
        • 数値の根拠
          • しっかりと定義されていない印象あり
    • JIS X 8341-3改正
      • 日本のA11y Supported Use of Tech.
    • WAB Cluster
  • 現実のアクセシビリティ
    • サイト制作
    • JISに準拠?
    • サイト評価
    • 日本のUAの機能不足→「日本の視覚障害者用ウェブ利用ソフトの機能調査」
      • メジャーなスクリーンリーダーはWeb利用機能に欠けていた
      • JAWSは高価
      • HPRIE7Vistaをサポートしない
    • ユーザーや教育組織の知識不足
    • 変化する技術
      • PDF
      • Flash
      • 動的なWeb
      • Webのアプリ化
    • Web制作者の目的はアクセシビリティではない
    • 複数の標準
    • 研究
      • (技術ベースの)思いつき→ニーズもなければ100年後の基礎にもならない
      • 同じテーマの繰り返し(関連研究の調査不足)
      • Web a11yの基本知識、ガイドラインの勉強不足
      • 客観性・信頼性・再現性に注意を払わない
      • Web a11yの構成要素を無視
        • アクセシブルなコンテンツ
        • 必要な機能を持った支援技術
        • 支援技術を使いこなせるユーザ
          • コンテンツの見出し要素等の記述が不適切
          • スクリーンリーダーに機能があってもユーザーがその機能を知らなければ無意味
          • ユーザーが見出しや表の概念を知らなければ無意味
II. Web a11y に必要な物

続いて第2部。

「音声インターフェースとWebアクセシビリティ」西本卓也(東京大学

  • インターフェースの原則
    • 目標:音声インターフェース設計の体系化
      • 既存のHMIに関する提案の再構成
    • 基本原則(1996)
      • 労力最少:移動量、回数、操作容易性
      • 透過性:状態理解、手順連想、フィードバック
      • 頑健性:誤入力防止、修復容易性
    • 構成原則(1996)
      • 初心者、熟練者、上級利用移行
    • 導入原則(2008)
      • 有用性、適合性、妥当性
  • プロによる文章構成
  • 電話音声応答システム
  • ミクロな実行・評価モデル
  • 実行と評価の不自然な対応
  • 対策の例
    • 音声インターフェース固有の快適性の追求
    • タスクの本質的な構造に基づく設計
  • まとめ

「ロービジョンの読みとWebアクセシビリティ」小田浩一(東京女子大学

  • 教育の応用分野でずっとやっていた
  • 最近はユーザーサイド(眼科のクリニック)でやっている
  • ロービジョンとは
    • 眼鏡でも強制しきれない、生活上の困難を抱える目の状態
  • 人口推定(全世界で6千万人)
  • ロービジョンは増加(社会問題化)
  • ロービジョンは十人十色
    • 視力が低い
    • 視野がかすんで見える
    • 眩しい・暗いと見えない
    • 視野が狭い
    • 中心が見えない
  • 視野がかすむ
  • まとめ

聴覚障害者の認知とWebアクセシビリティ」生目田 美紀(筑波技術大学

副題:眼球運動計測実験に基づいて
デザイン、GUIが専門。自分で手話翻訳していた。

  • 目的
    • 聴覚障害者にとってアクセシブルな情報提示方法を探る
背景と動機
  • 聴覚障害者研究は、音声情報の補償や言語性能力に関する事に集中
    • GDは音声情報保証の考え方を踏襲
    • 視覚刺激に対する脳の活性化部位が異なる可能性あり
    • 聴覚情報にアクセスする代替手段の実現だけで十分か?
実験1
  • タスク遂行時のWeb利用特性を探り、デザイン性を探る
  • 実験タスク:「Z4」という自動車の色を貴方の好みで選んで下さい。
    1. Z4に関するページを見つける
    2. 色を設定するページを見つける
    3. 色を選ぶ
  • 視線停留パターンと情報探索特性
  • 情報の意味特性
    1. 意味論的に関連するラベル(意味的な情報)
    2. タスク表記と一致するラベル[Z4]
    3. その他のテキストおよび画像(非意味的な情報)
  • 選択されたリンクラベルの意味特性(聴覚障害者と健常者の比較グラフ)
  • タスク遂行時間とエラー回数の関係(グラフ。比例関係。)
  • デザイン改良の結果
    • タスク遂行時間:短縮
    • エラー回数:減少
    • 聴覚障害者のタスクパフォーマンス:向上
    • 健聴者とのパフォーマンスの差:なし
    • ・・・
実験1から得た知見
  • 聴覚障害者にとって)アクセシブルなコンテンツというものがある
  • これは高齢者等、聴覚障害者以外の人にとっても有益な効果がある
実験2
結論

ガイドラインに基づくWebページデザイン空間から、聴覚障害者のWeb操作特性を考慮したデザイン空間への改善が望ましい

IBMにおけるWebアクセシビリティ研究」高木 啓伸(日本IBM

  • グランドチャレンジー請願者と視覚障害者の情報格差
  • 視線移動による視覚的探査く
  • キーボードによる音声情報の探索
IBMにおけるアクセシビリティ研究の歴史
  • ScreenReader/2 (1994)
  • ホームページリーダ(1997-2007)
ホームページリーダ
Ajaxの衝撃
  • 2003年Google Mapの発表
  • 「文書としてのWeb」の終焉
  • GUIとしてのWeb」
DOSスクリーンリーダからWAI-ARIA
Webアクセシビリティにおける研究と役割
  • 可能性の提示
  • 問題発生→研究活動による技術開発
今直面している問題
ホットトピック
日本の役割
  • 日本はWebアクセシビリティ研究の中心地になりうる!
  • 実績
    • 標準への貢献
    • クリエイティブ人口の増加
最後に
  • 皆さん、論文を出しましょう!
  • W4A
    • International Cross-discipinary Workshop on Web accesibility

第3部。

ディスカッション

  • 会場提供:ミツエーリンクスの自己紹介
  • 利用者からの要望は、開発の追い風となるので、是非声を上げて頂きたい
  • ユーザーの状況に合わせていく(視力の変化等)アプローチが難しい
  • ビジネスにならないと取り組みが難しいので、社会的な要請、拘束力が強まって欲しい
  • 誤解したアクセシビリティを実践してしまっている例も出てきている
  • WCAG2.0の悪例が出ていたが、やはりまだまだ調査研究が足りない
  • 正当性を評価する研究を世界中で行う流れが出てくればいいと思う
  • 「正しいコントラスト比」を決めるのは難しい。ユーザーの状況に合わせるのが大切になる。でも50〜60%というのは妥当かも(実験経験より)。
  • アクセシブル化によってデザインの自由度が失われる面もある。フレキシビリティが欲しい。
渡辺
  • ガイドラインはベストではないが、従って欲しい
  • コントラスト比の閾値を固定するのは好ましくない。研究課題
  • 多様なユーザー(健常者&障害者)ユーザーのプロファイルによってUIを変化させる研究を進める必要がある(ユーザーカスタマイザブル)
  • WCAGは視覚障害者を重視しているが、もっと多様なユーザーに対応するよう発展させるのが大事
高木
  • Ajaxが登場したときの「どうしようもない」感はよく覚えている
  • もっと「どうしようもない」ものはどんどん出てきている(ニコニコ動画など)
  • 日本は良い意味で実験場。この場を活かして開発していきたい
論文発表での被験者数について
  • 「被験者数が少なすぎて話にならん」と言われた事がある
  • 医療での事例報告研究をWebアクセシビリティの研究にも応用できないか?
  • 健常者に目隠しして実験する等でカバーしている
  • 被験者をseveral(7,8人)集めたいがそれも難しい
  • 障害者の多様性の問題もある
  • 知覚障害者で言えば、個人差が大きくて吸収できない
  • シングルケース(単一事例法)を活用してはどうか?
  • 学習効果があるので、単一被験者で実験を続けるのが難しい面がある
市川熹先生(早稲田大学、SIGACI運営委員)
  • 今回出たような問題は研究会でも議論しているが、結論は出ていない
  • 少数データをどう扱うかの認知がされていない
  • 10年計画くらいで取り組みたい問題
  • 医療の治験の問題に似ている(薬品がなかなか認められない)

まとめ、閉会

  • 海外イベントへの論文投稿のお願い
  • レベルを上げていきたい
  • SIGACIとUAI研究会の活動にもお越しください

感想

ご覧の通り、完全に学術的な研究会ですので、一般人にはついて行くのが難しい面がありました。最後は実験テクニックの出し合いになってて、ちょっとついていけない展開でしたし…
個人的な収穫としては、

  • WCAG 2.0といっても完璧なものではないのだ、という事
  • 世の中にはWebアクセシビリティを研究しているところがこんなにもあるんだ、という事(これだけ?と言えるかも知れない)

が理解できた事でしょうか。

以上、ライブレポートをお送りしました。